神戸芸術センター

- ●所在地
- 神戸市中央区熊内橋通7-1-13
- ●竣工時期
- 2007年12月
- ●規模
- 延床面積/46,919.60m²
地上37階/塔屋1階
高さ/131.14m - ●PC仕上げ・仕様
- タイル打込み
- ●設計
- 株式会社 村井敬合同設計
美しく強いPC
内外の壁パネルとして使われる機会の多いPC板にもう一役買ってもらうことにした。構造体、しかも超高層建築の骨格として採用することにした。神戸芸術センターでのPC板は潜在能力の全てを出し尽くしてもらうことにしたのである。美しい外装下地パネル、超高層建築の高強度PC柱、そしてプレストレスをかけた大スパン梁。良い料理人は素材を余すことなく使い、良い設計者は素材の可能性を最大限に引き出すものと信じている。外装仕上げは花崗岩打ち込み、大型タイル打ち込み、ステンレスパネル打ち込みなど技術力を要求されるものばかりである。現場打設コンクリートは最小限に押さえられ、結果として無駄な壁、構造体も最小限となりコスト削減に貢献している。仕上げが施された大型躯体PCは製作するのも、またそれを現場で取り付けるのにも最高の技術が要求される。立ち上がった姿を見ている分には陰の苦労は感じ取れないかもしれないが、良い建築とはそういうものである。挑戦する山が高いほど技術者は力を出す。わざと難しくしているわけではないが、安易な妥協はしないようにしている。協議がデッドロックに乗りかけると立場にこだわらず皆が知恵を出し合った。良いものを作るためには施工者も設計者のように振るまい、設計者も施工者のように工法に苦しむ。高強度コンクリートの管理は簡単ではない。ポストテンションを大スパン梁にかけるのも気の抜けない話である。外装部分は既に仕上がっている。しかも外装材は石、大型タイル、ステンレス板、など現場修復が不可能なものばかりである。製品検査とは重い言葉である。設計者、施工者とも検査能力が要求される。デザインは構造力学によって裏付けされる。宙に浮いているわけではない。PC板の重さが必要なところは重いデザインとすれば良い。力の流れに正直に対応すればデザインから無駄な力が抜け洗練される。神戸芸術センターを見た人の感想は最先端の企業本社ビルとの印象が多いようである。いえ、これは芸術センター。高層部は賃貸住居ですと答える。訪問者の顔には快い驚きが広がる。
建築家
村井 敬